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会社のアメリカ人の同僚に、子供が生まれてからどのくらい休むの?と聞かれたので、
「う~ん、3ヶ月で復帰したいけど、状況次第ね。長くても6ヶ月のつもり」 と答えると、「6ヶ月は長いね!早く復帰できるといいね。」 と言われた。
同じことを日本人同僚(年上男性)に話すと、「早く復帰するんだね。頑張ってね」という人から、「そんなに早く復帰したら、子供が可哀想じゃないか」という心ない反応まで。とにかく「早い」という反応。

米国には法令で決まった産休や育児休暇というものがなく、各企業が制度や金銭的補助を自主的に設けている事が多い。それがだいたい2-3ヶ月。だから、女性の復帰も産後2-3ヶ月が普通だ。それでこの反応なのだろう。
同じことは、東南アジアの各国でも見られ、女性の復帰は産後3ヶ月程度だ。

一方、日本では出産をきっかけに仕事を辞める女性が多いのに加え、育児休暇を子供が1歳(保育園に入れない場合1歳半)になるまで取得できる。その間も給与の67%(ただし上限は3ヶ月間28万円、その後21万円)が保証される。そのためか、1年近く職場を離れる女性が多いので、この反応なのだろう。

(ちなみにヨーロッパ人はアメリカ人に近い反応だ。育休制度は整っているが、キャリアを積んでいる女性は早期復帰の傾向が高いからだ)

日本は、2000年代の政府の涙ぐましい努力のお蔭で、世界でもまれに見る、育児休暇の整った国だ。
日本より制度的に育休が長く、給付額も大きい国は、他にはスウェーデンくらいしか無いのではなかろうか。

各国の育児休暇制度との比較はこんなページで見られる
・最近のもの(2015年2月)→ 国際比較から見る日本の育児休業制度の特徴と課題
・ちょっと前(2010年12月)→ 男性の育児休暇を促す育児休業制度のあり方
・だいぶ前、でもP49の表が見やすい(2005年)→主要国における仕事と育児の両立支援策

しかし、育児休暇が長いことは本当に良いことなのだろうか?

こういう制度は、働く女性が子育てをするのを支援するものだが、決して女性がキャリアを積むのを支援するものではない。
もっと言ってしまうと、保育所やシッターなどの育児インフラが整っていないので、働く女性(または男性)に給付金を与え、休ませて子育てをさせ、キャリア形成を阻害している、という見方もできる。

働く立場から見ると、職務にもよるが、1年ものブランクがあると色んなスキルや感覚が鈍ってしまう。
社内のネットワークも希薄になるし、営業等であれば、顧客との関係も今より薄くなってしまうだろう。
それらをもう一度再構築して、キャリアを築き始めるのには時間がかかる。
妊産適齢期である20代から30代前半にかけては、体力もあり、仕事上のスキルを身につけながら、キャリアを駆け登っていく時期だ。そんな時に、一人産むごとに1年も休んでいるのは、もったいない。

職場から見ても、1年ブランクがある社員を、復帰のサポートをしながら使うのは結構な負担だ。
これが3ヶ月程度なら、欧米で言えば長期のバカンス程度に過ぎず、そこまでサポートしなくても、フル戦力になってもらえるだろう。

日経文庫「女性が活躍する会社」 には次のような下りがある。
空調設備で世界一のダイキン工業は、2014年に、出産後6ヶ月未満で職場復帰する女性社員に対して、最初の1年の保育補助費を従来の30万円から60万円に増額するという人事施策を導入しました。(中略)
ダイキン工業の井上礼之会長兼CEOは、「本人にとってもブランクは短いほうが現場感覚が鈍らないし、キャリア形成もしやすい」と、制度導入に踏み切った背景について説明しています。

井上会長は、ワーキングマザーは大変だからと、責任ある仕事を任せないのは「優しさの勘違い」だとも指摘しました。その「優しさ」に安住していたら、いつの間にか戦力外になってしまうリスクが有るのですが、企業で働く女性も、そこに目をつむっていたのです。   
女性が子育てをしながら、キャリア形成を支援する施策というのは、育児休暇中の給与を補償するものではなく、早期の職場復帰を促しながら、ベビーシッターなども必要に応じて雇えるほど金銭面でのサポートをする、このダイキン工業のような施策を言うのだろう。

女性の早期の復帰を阻むのは、保育所不足問題と、その代わりに育休を長く取れる制度のせいだけではない。
母親は子育てを優先すべき、という周囲の価値観や期待が、早期復帰しようという女性をとどまらせる。
「そんなに早く復帰したら、子供が可哀想だよ」「お母さんは子供にとって一人なのだから」などの言葉が、悪気もなく、女性だけに浴びせられる。

なお、「子供が可哀想だ」という人たちは、決してあなたの子育てを手伝うわけでも、あなたのキャリアを築く協力をするわけでもない。
むしろ、あなたのキャリアに興味もないから、こういう言葉が悪気もなく出てくるのだろう。
本当にあなたのキャリアを築く協力をしようと思っている人たちは、こんなことは言わない。

例えば、私には、会社に何名かの男性のメンターがいるが(メンターとは→参考記事)、彼らはこのようなことを言う。
「早く復帰したいなら、会社として出来る限りのサポートをする。
でも、子育てを楽しんでゆっくり復帰したいなら、復帰した後に、しっかりとキャリアを再形成出来るように協力するから、安心して休みなさい。
子供を産み育てることで、人として大きく成長することが、キャリア形成にも非常に意味があるから。」

ブランクは短いほうが、本当は、本人は楽にキャリアを築けるので良い。長く育休を取ればきっと苦労するだろう。
でも子育てにしっかり時間を使いたいという考え方もあるから、強制は出来ない。子育てでキャリア形成に学ぶところもあるだろう。
どんな選択肢を取っても、協力をしよう。
あなたを本心からサポートしようとしてくれる人はこのように考えるものだ。「子供が可哀想」「母親は一人だ」など、他人事でしかない人達の話を真に受ける必要は全くない。

話を戻して。
日本の両立支援制度が、育児休暇を長く取りやすい方向だけに進むとしたら、大きな問題である。
保育所やベビーシッター・学童保育、およびそこへの補助金などを充実させること。
育児休暇時の給与補助ではなく、保育費等の金銭的補助をすること。
こうやって、女性が出来るだけ短いブランクで働き続けられるほうが、安部政権が目指している「少子化を解消しながら、女性リーダーを増やす」という目標には近づくだろう。

追記: 先週の記事「パートタイム育休」制度は、どうしても保育園が見つからず高いけど無認可で・・というような女性の職場への早期復帰を促すものだと考えています。
提言:「パートタイム育休」は可能なのか
提言:「パートタイム育休」は可能なのか-Part 2 反響まとめ

追記2: 誤解がないように補足すると、この記事の趣旨は、現在の政策が「育児休暇を支援」することに重きを置かれていることへの批判です。本当に女性のキャリアをサポートするなら、育児支援金を出すとか、保育所などの施設を増やす方にも行くべき、というものです。
「キャリアを優先したいけど、金銭的な理由等で出来ない女性に無理をしろ」という趣旨ではないです。(もちろん意識改革は必要ですが・・)

参考文献

女性が活躍する会社 (日経文庫)
大久保 幸夫
日本経済新聞出版社
2014-10-16

 
「女性活躍推進」=「少子化推進」の失敗を繰り返さないために-超少子化社会、脱却への処方箋-
ニッセイ基礎研究所 天野馨南子
・・・こちらは妊産適齢期の20代後半の女性へのサポートの必要性を訴えるもの