「へえ、あいつも女の幸せに目覚めたの」
「超バリバリ働いてたのがあっさり辞めちゃってさ、もったいないよね」
社会人6年目で出産した私自身が、友人が、そして今回のインタビュー対象者を紹介してもらう上で、何度も聞いた台詞だ。いや、思えば社会に出て以来、聞かされ続けて来たことだ。
「女は結婚すると皆、あーなっちゃうんだよな」「お前はああいう風になるなよ」 

こんな序文から始まる本書は、そんな風にバリバリ働いていたキャリア志向の女性たちが、妊娠・出産をきっかけに仕事を辞めてしまう経緯、そしてそれを起こしている構造的な問題を、15人の女性たちのインタビューを通じて明らかにしたものだ。

本書のインタビューによれば、実は、男性と遜色なくバリバリ働きたいという思考を持つマッチョ志向の女性ほど、出産をきっかけに仕事を辞めている。中には専業主婦になっていく人もいる。一方で、就職活動の時から「自分は育児もしたい」と、社会の中の女性的役割を受け入れている女性のほうが、結果としてキャリアを継続している。著者が序文で問題提起しているように、「バリキャリ女性ほど、突然女の幸せに目覚めたかのように辞めていく」ということが、実際に起こっているのである。女性の意識と一見逆転しているように見えるかのようなことが、何故起こるのだろうか。

読み進めるほどに、 マッチョ志向の女性は、学生時代から「私は男と同等に、ハンディ無しでバリバリ働きたい」と考え、男性比率の高い伝統的な職場に飛び込む傾向が高いことが浮き彫りにされていく。そして、働きながらも「女性だから」という理由でサポートを得ることを潔しとしない。
そんな職場にいながら、たまたま20代で結婚し、妊娠、出産をしてしまったら、その後の職場からの育児と両立するためのサポートが得られなくなってしまうのだ。または妊娠した女性の待遇が分からない周囲からは、腫れ物に触るように過剰に扱われ、一般職の女性と同じ職務に追い込まれる。本人は元々求めていたやりがいを得られず、「何のために子供との時間を犠牲にして、仕事しているんだろう」と悩み、裏切られたような、半ば諦めの気持ちで離職していくのだ。
一方で、女性的役割を受け入れる女性のほうが、バリバリ働くやりがいよりも、育児と仕事を両立できるような職場環境を重視して職場を選んでおり、結果として周囲の理解やサポートを得られ、キャリアを継続できているのである。

結局のところ、女性自身の意識や努力よりも、職場における女性への待遇やサポートの方が、女性のキャリア継続に重要であること、そしてそういった職場を最初から選ぶか否かが、女性のキャリア形成に大きく影響しているのである。

15人という少人数の調査だが、それぞれの女性に納得の行くストーリーがある。
辞めていくバリキャリ女性が、決して「女性としての幸せに目覚めたから辞めていく」のではないこと。そして育児をしたい思考も強く、職場もそれで選んだ女性が、周囲のサポートを得て、キャリアとの両立を真剣に考えるように変わっていく様子が描かれており、それをつなげてストーリーとして読むのも面白い。

本書に登場する15人は、育児休暇等の制度が整い始めた2000年代に就職、その後20代で結婚、20代のうちに第一子を出産している。世の中には、私のようにある程度のキャリアを積み、30代半ばを過ぎてから出産するケースも多くあり、彼女たちは違う課題が問題となるので、女性のキャリアと育児の両立がこの本で全て解決できるというものではない。しかしながら、こういった20代結婚・出産をすることが普通に出来るような環境にならないと、少子化問題は解決しないので、その意味でも本書は十分に大きな問題提起をしていると思う。