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「仕事でもしっかりキャリアを積みたいけど、子供も欲しい」と考える女性は、育休制度等が整い始めた2000年代以降増えており、今では高学歴女性の大半を占める考え方になりつつある。

一方で、彼女たちは「いつ産むのが良いのか」「産んで本当に両立できるのか」などの悩みを持っている。
私も、社内外問わず女性の若手社員や女子学生などから、こういった質問を受ける事が度々ある。

「会社で実績を積み上げる前に出産して長期間育休を取ったりすると、戦力外になってしまわないか?」
「かと言って、日本企業で一人前になるまで10年働いたら35歳。それから自分に子供が出来るか、と考えると分からないし、キャリアと子供を本当に両立できるのか不安です」
「女性として育児と仕事を両立するための仕組みはあるんでしょうか。また、そういうロールモデルになるような人はいるのでしょうか?」など。

なお、男性の後輩や男子学生から、このような質問を受けたことは一度もない。
(本当は悩んでいる人もいるかもしれないが、男がそういう質問をするのはおかしいと、しないだけかもしれない)
そう考えると、そもそも女性だけが「キャリアを考えるといつ産むべきか」などと、こんなにも考えさせられるのはおかしな話だな、と思う。

女性がキャリアと育児の両立に悩む理由の、本当に根っこにある原因を考えると、次の3つに集約されるのではないかと考えている。
  1. 「一人前になるのに10年かかる」遅いキャリア形成
  2. 「正社員は残業が当たり前」という先進国ワーストクラスの労働生産性の低さ
  3. 保育所・ベビーシッター等の育児を支える社会インフラの不足
この3つの状況で、夫婦にとって育児とキャリア・仕事の両立が難しくなっているのが根本的な問題ではないだろうか。その上で、4番目の理由として、これらを、女性だけが自分のキャリア形成を犠牲にしたり、労働時間の調整で補うのが当たり前となっている社会通念があるため、女性だけが大変悩む結果となっているのである。
 
最近「イクメン」という言葉が流行し、長期の育児休暇などをとったり、仕事の仕方をフレキシブルに変えることで、育児に積極的に参加する男性を礼賛する動きがある。
これ自体は良い傾向としても、どちらかと言うと、4番目の夫婦にとっての負担を夫婦平等にするという対症療法であり、本当は1~3の根本的な理由が解決されなければ、そもそもキャリア・仕事と育児の両立が難しい状況は変わらないだろう、と考えている。

少し詳しく解説してみる。

1. 「一年前になるのに10年かかる」遅いキャリア形成

「いつ産むのが良いのか」「20代で産んだら戦力外になるのでは?」という女性の悩みは、結局のところ多くの日本企業でキャリア形成に時間がかかることに問題がある。

中野円佳「育休世代のジレンマ」という本を読むと、高学歴でキャリア志向を持って就職し、社会人4~7年目、20代後半から30歳で子供を産んだ女性たちが、キャリア形成との両立の間で悩んでいる様子が描かれている。
日本の初産平均年齢が30.3歳(2012年)と言われる中、彼女たちが産むのが特別早過ぎるわけではない。

一方、一人前に仕事が出来るようになるのに10年かかる日本企業は多い。
一つの仕事の単位が3~5年、2つか3つの仕事を担当して初めて一人前、と認められるから、10年かかるのだ。
10年は長い。
出産可能年齢を考えれば、仕事を覚え、会社に認められる前に出産をして、育児休暇で1年などのブランクを持つことに不安を覚える女性が多いのは、不思議なことではない。

これに対して、外資系や一部の日本企業には3~5年で一人前と認められ、マネージャーやチームリーダーなどリーダー職に就くことが出来る企業も多い。新卒就職市場を見ていると、男女問わず、若いうちに責任のある仕事をしたい、と望む人ほど、結果として出世の早い企業を選ぶことが多い。

さっさと一人前になり、会社の信頼もあり、仕事の量の調節など裁量権が増えれば、育児休暇などでブランクがあってもさほど大きな問題にならなくなる。実際、米国、北欧やドイツ、フランスなどの国では、ホワイトカラーの職場では、さっさと出世して、20代後半から30代前半で子供を産んで、職場に戻る、というスタイルが確立している。

大久保幸夫・石原直子「女性が活躍する会社」という本では、男女ともにスタートダッシュさせ、5年でリーダー職に昇格させるキャリア形成へ変えていくことを提案しているが、そうすることで男性にとってもやりがいがあり、企業にとっても外資に流れてしまう優秀な人材を確保しやすくなるだろう。

日本企業が、このように人事の仕組みを変えるには、上の世代も含む他の調整も必要であり、相当大変である。でもそれをやらないと、女性活用が難しくなるだけでなく、男性も含め優秀な人材が流出している企業や海外企業との競争が難しくなるのは目に見えている。

2. 「正社員は残業が当たり前」という先進国ワーストクラスの労働生産性の低さ

女性が育児と仕事の両立に苦しんだり、遅くまで働く同僚を尻目に恐縮しながら帰宅するのも、「イクメン」男性がなかなか定着しないのも、結局、残業が当たり前なほどワークロードが多い日本の職場に問題がある。

今どき保育園は7時半まで預かるところはザラだ。学童保育も6時までやっている。もちろん病児保育などの問題はあるものの、男女ともに5時、6時に仕事を終えて帰宅するのが当たり前の職場であれば、そこまで両立が厳しいとはならないのではないか。

日本の労働生産性の低さは、先進国の中ではワーストクラスであることはよく知られている。
OECD加盟国の労働生産性を比較すると、時間あたりの労働生産性では20位。
G7の中では最低であり、先進国と呼ばれる殆どの欧米諸国より低い。
また、産業別に見ても大きな違いはなく、どの産業も軒並み低い、という特徴がある。
(引用:日本の生産性の動向 http://www.jpc-net.jp/annual_trend/index.html

何故、日本企業はそんなにも生産性が低いのか。
日本企業の利益率が、欧米企業に比べて低い、というのも理由の一つだが、加えて労働時間が長い、というのも労働生産性の低さを加速されている。

日本以外の先進国の企業で働いてみると、ベンチャー企業や投資銀行などの特殊な企業で無い限り、朝8時から働いたら6時には上がるのが常識である。人々はその後、家に帰り、家で子どもたちと一緒にごはんを食べるのだ。日中はずっと預けていたとしても、夕方以降はずっと子どもと過ごす事ができる。

一方、日本企業では正社員が残業をするのはデフォルトになっている部分がある。
一円の利益にもつながらない週報や報告書。アジェンダもないのに延々と続く定例会議。
本社と事業部・支社・営業所・工場などで組織が二重構造となり、同じことを複数の部署がやっている。
本社の人員削減を余りにもやり過ぎたために、事業部や支社が本来の機能に加えて本社機能も果たさなくてはならなくなっている非効率性。
正社員のワークロードを増やしている非効率性の理由は多々あり、それらは本来全て解決可能である。

加えて、「効率よく仕事を終わらせる人」より「頑張って長い時間働く人」を褒める文化もある。

3. 保育所・ベビーシッター等の育児を支える社会インフラの不足

3番めはよく言われることなので詳しくは述べないが、欧米に比較すると保育所やベビーシッター等の子育てインフラが圧倒的に不足している。

一方、日本は、1年、場合によっては1年半もの「育児休暇」の制度が国として整っているが、これは欧米諸国の中でもまれに見る長さだ。
一見、出産・育児と両立する女性に優しい制度に見えるが、実態は、子育てインフラが余りにも貧弱なので、女性のキャリアを中断させて、子供の面倒を見るようになっているだけである。
20代で産む場合でも、30代後半で産む場合でも、女性が職場復帰するにあたり、ブランクは短ければ短いほど、復帰しやすいのは同じである。長いブランクは、本人の出世にも悪影響を及ぼすし、会社としても非効率となるだろう。

もちろん、1年休んで子供の面倒を見たい、という価値観の人がそうすることが可能なのは良い(欧米でも、育休を1年取る選択をする女性は多く存在する)。保育所に入れないという理由で仕方なく長い育休を取らざるを得ない女性が多い状況は、国として女性活用を推進しているとは全く言えない。


以上、これら3つの問題が解決してくれば、仮に女性だけが育児の負担を負うとしても、キャリアとの両立にそこまで大きく悩まなくなるだろう。北欧で出生率が高いのはこの3つの問題が無いからだと考えている。また、出世が早い、6時には帰れる、子育てインフラもある、という世の中であれば、「イクメン」を礼賛しなくても、男性ももっと気軽に子育てに参画できるようになるだろう。

「イクメン」が増えるのは喜ばしいことだが、それは男女で負担を分けるということに過ぎず、負担が大きい限り、「イクメン」増加も一過性のものとなりかねない。男女ともに、育児とキャリア・仕事の両立の負担が軽くなるよう、企業と社会の制度を変えていくことが望まれることだろう、と理想的には思っている。

参考文献:

日本の生産性の動向 http://www.jpc-net.jp/annual_trend/index.html


 
女性が活躍する会社 (日経文庫)
大久保 幸夫
日本経済新聞出版社
2014-10-16