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変なタイトルだが、私が妊娠前から初期にかけてずっと悩んでいたのは、これだった。

「リーダーシップ」とは、自分が何かをしなくてはと思って、周囲の人や物に働きかけ、「動かない人・ものを動かす力」であり、「何か新しい動きを作ったり、何かを変えていく力」のことだ。
例えば、伝統的な組織で根回しをし、人の気持ちを動かして、今までのやり方を変えていくのはリーダーシップと呼べるし、周囲の同僚に働きかけて、労働環境を改善していくのもリーダーシップである。
組織の上からトップダウンで動かすのも、平社員が草の根で動き方を変えるのも、どちらのタイプもある。
どのような仕事でも、何かを作ったり、変えたり、動かしている人たちは皆リーダーシップを発揮している、と言える。

私がやっているコンサルタントという職業は、クライアント企業を変革するのが仕事で、リーダーシップをとることが常に求められる。
更に、私のいる会社は、リーダーシップの権化みたいなところで、入社面接で最も重視されるのはリーダーシップであり、新卒の頃から仕事のみならず遊びに至るまでリーダーシップを取って積極的に動くことが求められ、卒業した人々はリーダーシップについてたくさんの本や教科書を出している。
立場が上がってくれば、尚更重要になるものだった。

にもかかわらず。

昨年の夏、私は妊娠を機に、リーダーシップを取って何かにチャレンジすることが出来なくなった。
「らしくないね」、という人がいた。「あいつ、やる気無いんじゃないの」と噂をする人もいた。
気持ちとしてはやりたいが、妊婦であることと、リーダーシップを発揮することをどうやって両立すれば良いのか、わからなくなってしまったのだ。
その後数ヶ月、苦しみながら模索し、どう両立すれば良いのか、だんだんわかってきた。
このエントリでは、その方法論について書こうと思う。

妊娠中、または妊娠をしようとしている時、女性がリーダーシップを発揮するのが難しくなる事がある。
その理由は主に2つある。

ひとつは体調だ。
妊娠初期は、個人差はあるが、つわりで体調が悪く、思うように頭が働かない、体が動かないことも度々ある。
二日酔いの気分の悪さがずっと続いている状況で、人を動かし、組織を動かして、何かを率先して進めていこう、と決意することができるか? 中々大変なことだ。
何事にもやる気が出ず、億劫で、何もやりたくないと思ってしまうことも多い。
ましてや、体調が悪いのを押して自分が疲れるだけなら無理をしてでもやってやろう、と思うが、今は自分が体調を崩すとお腹の赤ちゃんに影響するので、なかなか無理もできない。

もう一つは、数カ月後には産休を取らなくてはならないのに、今から責任のある新しいことを始められない、という思いだ。
商品開発にいて、新しい商品の開発を担当し、自分が完成に至るまでの全責任を持てるか。
営業にいて、新しい顧客を開拓し、自分が会社を代表して顧客に責任を取ることができるか。
妊娠中の女性だけでなく、今から妊娠しようと思っていたり、不妊治療をしている女性も、いつから自分が休みに入るかわからないと思い、責任を取るのは難しいと感じる人は多いだろう。
責任感が無いからではなく、責任感があるからこそ引き受けられない、そういう女性は多いのではないか。

また、上の2つほど決定的ではないし、どちらかと言えば克服すべきものだが、不安というのもある。
人は、何か不安がある時、別のことに集中するのはなかなか難しい。
男性にとっても、家庭の問題や病気など不安があるとき、己をマインドコントロールし、仕事でリーダーシップを発揮するのはなかなか大変だ。
妊娠初期は、染色体異常で流産する確率が2割程度あると言われる。妊娠がわかった女性は嬉しい半面、腹痛や出血などちょっとした体の変化のたび、赤ちゃんは大丈夫か、と不安に思う。
どのような状況でも自分をマインドコントロールして不安を乗り越え、リーダーシップを発揮して何かをやり遂げるかどうかは慣れもあり、立場が上がるほど必要になるスキルであるが、30代など若いうちから当たり前に持っている人は少ない。

どの国のどの企業でも、管理職や経営層に出世するためには、リーダーシップを発揮できるかどうかが決定的に重要になることが多い。
実際、女性の経営層や管理職が男性より少ない理由として、女性のほうが責任感を持って何かを成し遂げるリーダーシップが少ないから、と指摘されることが多くある。
そんな中で、女性としてリーダーシップを発揮したくても、出来ないことは辛い。

そんなわけで、昨年の夏、私はかなり辛い思いをしていた。
例えば、私には今までずっとやってきて、ノウハウがたまっている仕事があるが、自分がリーダーシップを取って、それを他国や異なる産業に展開をすることを求められていた。
求められるだけでなく、自分でもそうしたいと思っていた。
しかし、妊娠が判明し、来年には産休を取るかもしれないのに、新しいことを開始する無責任なことは出来ない、と思い、思い切った行動を取れずにいた。

短期間で成果が求められる難しいプロジェクトの責任者を、お断りしたこともあった。
こんなこと、これまでにはなかったことだ。難しいプロジェクトこそ、やりがいもあり、大好きだったのに。
しかし、プロジェクトの責任者として、クライアントに十分満足な成果を届けるためには、徹夜をしてでも完成させるし、自分が駆けずり回ってでも情報を取ってくる必要があることもある。
いざというとき連日徹夜をして、駆けずり回れるか、と言われると、今は無理だ、と判断した。
自分らしくないな、と思い、落ち込んだ。

それから数ヶ月経って、昨年の10月頃から、徐々にリーダーシップと両立する方法を編み出していった。
その結果、様々なことに取り組めるようになり、良循環が回るようになってきた。

その良循環が回るようになった、5つのポイントを書いてみる。
どの点も、何故このことに気付かなかったのだろう、と今は思うことばかりだ。
次にまた妊娠をすることがあったら、かなり初期から、または妊娠前から実施したいと思っている。

1. ひとりでやらない。必ず仲間を見つけ(焚きつけ)、ダブルヘッダー以上でリードする

妊娠中、または近いうちに妊娠しようと思っている女性であっても、新商品の開発や新規顧客開拓など、新しいことをリーダーとして始めることを諦める必要はない。
同じようにやりたいと思っている仲間を見つけ、またはその人を焚き付けてやる気にさせ、ダブルリーダーになれば良いのである。

「この商品のことを一番知っているのは自分だけだから、自分しかできない」となどと思う必要はない。
むしろ、自分だけが知っていることだからこそ、ダブルリーダーになっても価値を発揮できるのだ。
自分の役割は、自分だけが知っているそのノウハウを伝授することだ。
相手の役割は、自分が体調面もありリードできない時に、やってもらうこと、そして自分が産休に入っても継続的にリーダーシップを取ってもらうことだ。

産休が終わって、自分が帰ってきたら、ダブルヘッダーを再開すれば良いし、自分がいなくても回るようになっていたら、また新しいことをリードし始めれば良いことだ。

会社の仕組みとしては、妊娠した女性を「プロジェクトから外す」のではなく、他の人とダブルリーダーにする仕組みを導入することが、女性のリーダーシップ育成に役立つだろう。

2. 他の人をリーダーに据え、自分は後方支援に徹するタイプのリーダーシップを学ぶ。
  または、自分がいなくなってもリードできる人を育てる。


自分が前面に出て、物事を推し進めるだけがリーダーシップではない。
人前に出るリーダーは他の人にやってもらい、自分は後方でその人を支援しながら、チームとして物事を動かしたり、変えたりしていくのも、立派なリーダーシップである。

他の人、特に後輩をリーダーとして仕立て、足りないスキルを後方からサポートすることに徹すれば、その人の成長にもつながるし、感謝され、信頼関係を構築することも出来るだろう。
自分は前面には出ないが、いつでも電話や社内会議で相談してもらい、行くべき方向性を示したり、やり方を教えたり、やる気を出させてあげたりすればよい。
と書くと、まるでその人の上司みたいだが、実際、本当の意味での管理職になる良い練習になるだろう。

このやり方を成功させるには、信頼できる人(勝手に進めないで、失敗する前にちゃんと相談してくれるなど)を探し出すのも重要になる。

会社の仕組みとしては、妊娠した女性が後方支援でも価値を発揮しやすい仕組みを整える(会議体を電話会議中心にする、後輩をリーダーとして育てる仕組みを導入するなど)のが、女性リーダーを増やしていく、または子育て中の男性も含めてフレキシブルなリーダーを増やしていくのに役立つだろう。

3. 妊娠中でもリードできるタイプのことを見つける

妊娠中で体調がすぐれない時でも、そこまで負担がない、または長期的な責任が必要とされない案件というのは、探してみると意外に多く存在する。
今やっている案件が、妊娠中だと負担が多く、最後まで責任を取れないという場合でも、ただ辞めるのではなく、そういう代わりの案件を見つけて、シフトすることを提案する方が圧倒的に良い。
リーダーシップが無い、信用出来ない、と思われるリスクを避けられるし、自分にとってもリーダーシップを維持し続ける良い練習となる。

4. 一緒に仕事をする人、自分をサポートしてくれる人には包み隠さず話す

これは最も後悔していることの一つだ。
当時は、自分は高齢出産だし、体調も優れなかったので、流産する可能性が高いだろう、と思っていて、一緒に仕事をしている後輩にも話せなかった。
今は、たとえ残念な結果だったとしても、同じプロジェクトで一心同体に仕事をしてくれる後輩には話しておくべきだった、と思っている。
噂が広がり、心ない噂で傷つくことがあったとしても、一緒に仕事をする一部の人達から信頼を得られることのほうがずっと大切だ、と今は思う。

自分が傷つくかもしれない、デリケートなことを包み隠さず人に打ち明けるのは、とても難しいことだ。
でも、古今東西どのリーダーシップの教科書にも書いてあるように、自分の悩みや秘密を相手に包み隠さず打ち明けることは、相手と親密になり、相手の信頼を得るために最も効果的なことだ。
多くの場合、相手はあなたのことをサポートしてあげようと思うようになり、最大の助けを得ることが出来る。

最終的に話すかどうかはあなた次第だが、相手の信頼と助けを得るためには秘密を打ち明けるのが最も効果的である、というリーダーシップ論があることは知っておいても良いだろう。

5. かなり先のことまで予測・計画し、長めのリードタイムで行動することを優先する
   頼まれたことは出来るだけその場で解決、あとに残さない


最後は妊娠中に限らず、常に心がけておくべきことだが、妊娠中もリーダーシップを取って何かを進ませ続けるためには特に重要になるポイントだ。
妊娠中は、いつ体調がどうなるかわからない。突然入院、なんてことも起こりうる。
いざというときの馬力が効かないし、その場の力で何とか乗り切るなどという技が使えないことも多くなる。
ので、かなり先のことまで予測して行動、早め早めに物事を進めておき、いつ自分が倒れても大丈夫なようにしておくことだけに、
また、頼まれたことは出来るだけその場で、またはその日のうちに解決してしまい、ためておかない。
そうすることで、自分も余裕を持って安心して物事を進めることに専念できるし、周りも安心して妊娠中の自分に任せておく事ができる。

妊娠初期は体調も優れず、何をするにも億劫で、何でも後回しにしたい気分になることが多いものである。
そんな中で、周囲の信頼を維持しながら、何かを進ませるためには、先まで計画すること、とにかく先に終わらせること、それだけをなんとか優先して進めるのが良い。


実はどのポイントも、妊娠しているかに関わらず、もっと言うと男女にかぎらず、フレキシブルなリーダーシップを取るために大切になるポイントだと思う。働き方が多様になっている今だからこそ、男女ともに大切なスキルかもしれない。

この記事の続編はこちら
・ リーダー型女性が「頼る・後方支援に回る」スタイルを築く8つの方法(前編)
・ リーダー型女性が「頼る・後方支援に回る」スタイルを築く8つの方法(後編)